元禄忠臣蔵 第一部

国立劇場大劇場で、10月歌舞伎公演「元禄忠臣蔵」(第一部)を観劇。

真山青果の「元禄忠臣蔵」10篇を、3か月に別けての通し上演で、今月は、「江戸城の刃傷」「第二の使者」「最後の大評定」まで。

真山美保演出、織田紘二補綴・演出。

上演時間は、合計で60分の休憩を含めて、4時間半。
観劇日は、午後4時30分の開演で、9時2分頃の終演だった。

公演プログラム、800円。
他に、上演台本、資料集も販売。


「第二の使者」で、中村吉右衛門丈の大石内蔵助が登場に及ぶや、満員盛況の客席から、滝の音やしかりと思うほどの拍手が起こった。抑えた演技に重みと人間的奥行きが感じられ、大石内蔵助であることを理屈抜きで納得してしまう。


子役は、「最後の大評定」での、大石内蔵助の娘おくうに、山口千春さん。内蔵助の次男吉千代に、芦村瑞樹くん。
吉千代は、戯曲にあるシーンの他、そのあと、内蔵助が登城のために出るとき、玄関まで刀を持って従って来る。

(後見で中村梅丸さんの名前もあったが、客席からは見取れず)


さて、「元禄忠臣蔵」という戯曲は、一篇ずつが独立した連作であり、舞台劇という制約があるにしても、「忠臣蔵」の話としては、痒いところには手を届かさずに、その周りや隙間を書いているような印象がある。

今月上演の第一部では、「最後の大評定」での井関徳兵衛親子(富十郎、隼人)の登場を素直に受け容れられるか否かで、観客としての感じ方は、ずい分ちがって来るのではないか。

かつては同じ浅野家に仕えていて、大石内蔵助の幼なじみだという設定の井関徳兵衛が、実在したのか、作者の創作なのかは、不勉強にして私は知らない。が、一般的な忠臣蔵の話には出て来ない人物だし、赤穂浪士の討入り物語とは関係もない牢人者である。こんな人物を内蔵助に絡ませるよりも、もっとえがくべきシーンがあるはず。といっては、テレビ時代劇を見慣れた人間の僻事になってしまうだろうか。

岩波文庫の「元禄忠臣蔵」を読んだときに感じた、井関徳兵衛登場によるうっとうしさは、いざ舞台を見てみると、さほどでもなかったが、親子して尾羽打ち枯らし、内蔵助やその子どもらに絡む様子は、いささか滑稽に見え、観客の笑声を誘う。しかも、具足櫃の鬼面の定紋。あれを見たら、おくうでなくても、指差してみたくなるのは道理というものだ。

「南部坂雪の別れ」では、羽倉斎宮ことのちの荷田春満が、さらにうっとうしい役回りで登場し、内蔵助や赤穂浪士に絡みまくる。この羽倉斎宮の行状は、活字を追っているだけで辟易するのだが、来月、11月の第二部では、チラシ掲載の場割りを見る限り、「泉岳寺の境内の場」は、舞台に乗らないようだから、羽倉斎宮の出番は少なくなるのか…。


劇中、セリフの応酬では、「最後の大評定」での、堀部安兵衛(歌昇)と磯貝十郎左衛門(亀寿)のいい争いが、面白い。
小姓勤めなら、なぜ追腹を切らぬかと堀部にいわれた磯貝が、追腹は天下の法度、禁令だといい返すが、法度、禁令もお家があってのこと、家が潰れたら関係ないとやり込められる。


今月の第一部は、女性(女形)はふたり&子役で計3人しか出ない芝居だが、そのふたり、内蔵助の妻おりく(芝雀)、潮田又之丞の妻お遊(京妙)のつくりが、武家の妻女というより色街の女将のようにも見えてしまうのは、これも時代劇を見慣れた目ゆえか。

ところで、元禄時代の侍というのは、この作の登場人物のごとくによく泣いたものか?舞台で見ると、これも、活字で読むほどには気にならなかったが、「元禄忠臣蔵」の面々は、じつに様々によく泣く。

今月上演の部分からざっと拾っただけでも、

ただ「泣く」だけではない。「落涙」「暗涙」「すすりなき」「声をあげて(立てて)泣く」「突っ伏して泣く」「泣き声を洩らす」「ハラハラと泣く(落涙)」「さめざめと泣く」「面目なげに泣く」「泣き入る」「暗涙をのむ」「暗涙にむせぶ」「低声に噎び泣く」「低く嗚咽を洩らす」
「涙をぬぐう」かと思えば、「怪しの涙メクメクと湧く」し、「涙声」「涙を含める声」や「一同、同音に泣く」というもある。まさに、泣きのオンパレード。
泣くといっても、ずい分いろいろとあるのだなぁと、感じ入る。「元禄忠臣蔵」における、「泣き」のバリエーション、男たちは、いかに泣いたか。…学生なら、卒業論文にでもしたら面白いかも知れない。


新歌舞伎なので、上演中は、客席が暗くなる。
退屈したら、これを読みながら、と思い、台本(1000円)を買ったものの暗くて読めず。せっかくだから、気が向いたら、岩波文庫版と台本とを照らし合わせて、異同をチェックしてみよう。


幕間には、新しくなったという緞帳の紹介あり。

また、大劇場3階ロビーでは、
国立劇場開場40周年記念として、『国立劇場の40年を彩った人間国宝』と題した写真展が開催中。(~2007年3月25日まで)

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