三越歌舞伎「女殺油地獄」他



だいぶ日が経ったが、6月2日に、三越歌舞伎を観劇した。

この日が、初日。



午前11時の開演。



プログラムが、1500円。(厚手のパラフィン紙のようなカバーがかかっていて、これがじゃまな上、開演中に配役を確かめようとページを披くと、このカバーが耳障りな音を立てる始末)



客席は、予想したほどは入っていなかった(「得チケ」も出たぐらいだから、あんなものか…)。三越劇場は1、2階とも傾斜が不充分で見づらい劇場だから、ところどころ空いているぐらいが、舞台が見えてよいともいえるが。



客席の下手前方に黒御簾。そのすぐ前に、斜めに花道を設置。



「車引」

深編笠で登場の梅王丸(猿弥)、桜丸(春猿)の芝居は、幕前で。その幕の後ろに時平公(薪車)の牛車があらかじめ控えているという、三越劇場仕様。

松王丸に段治郎、杉王丸が喜猿、金棒引に欣弥。

他に仕丁が6人。



とにかく、舞台が狭い。その分、迫力があるのは確かだが、(歌舞伎フォーラム公演を連想してしまいそうな)安っぽさとも背中合わせだ。





「女殺油地獄」



子役のお光(豊嶋屋七左衛門とお吉の娘)は、住川京香・下田澪夏、両嬢の交互出演。初日は、住川京香さんが出ていた。声の調子がもうひとつだったのか、花道からの出で、ちょっとセリフが詰まったみたい。

出番もセリフもけっこうあって、子役の芝居を楽しめる。

序幕の徳庵堤の場で、茶店に入った河内屋与兵衛(獅童)とお吉(笑三郎)の様子を、左手でのれんを除けて覗くときの「かたち」が目を惹く。三幕目の豊嶋屋の場では、惨劇の予兆で、お光の使う櫛の歯が折れる。



「女殺」は見たいと思いつつ、ようやく機会に恵まれたのだが、期待通りに面白い芝居で、見ごたえ充分。

この芝居、要するに、家庭内暴力にまで走ってしまっている放蕩者のどら息子が、立ち直ろうにも立ち直れず、切羽詰まって金のために人を殺して自滅するという、なんだかいまの日本で起きていそうな、現代ふうなお話なのだ。



歌舞伎の外の世界でスターになった中村獅童というひとの、その芝居の上手さが見て取れる役どころで、なんとも迫真である。与兵衛の心理を分かりやすく演じるので、自分が与兵衛になったかのように身につまされ、惹き込まれた。上方の演目らしい雰囲気とか浪花の若旦那らしさはほとんどないから、そのあたりの是非はどうなのかと思うが、演劇としての面白さはたっぷりだ。もっと狂気のほうへ振れればさらに別種の魅力があるのではないかと想像するところだが、そこを矯めて演じているところにきわどさが生まれ、与兵衛の居方がスリリングで、手に汗握るといった趣。



この「女殺油地獄」では、「車引」とは逆に、舞台の狭さが小劇場的なリアルな面白さにつながっている。



出演者のなかにあっては、笑三郎のお吉に、歌舞伎役者らしさが濃厚。序幕の徳庵堤の場で、与兵衛への親切を夫の豊嶋屋七左衛門(段治郎)に不義かと疑われるというのが伏線としてよく効いていて、金があっても貸すに貸せない立場。

七左衛門は、与兵衛とは好対照に潔癖で融通のきかない男だが、見た目だけでそれらしく感じさせたのが、上手いと思った。



それにしても、与兵衛には、同情する。父の死後、母おさわ(竹三郎)と再婚した番頭(寿猿)が、継父として店の主に直っている。お前のせいで叔父(寿治郎)が失職したと、別店を構える兄太兵衛(猿弥)は説教しに来るし(きっと何かといえば説教しに来る五月蝿い兄なのだろう)、妹のおかち(鴈成)は寝込んでいて、胡散臭い祈祷師(延郎)までやって来る始末。妹に婿を取ると脅されもして、身から出た錆とはいいながら、これではもういたたまれないな。遊冶郎になるしか逃げ道はないというものだ。ひと暴れしたくなるのも道理、障子を突き破るのも至極もっとも!と、すっかり、与兵衛に肩入れしちまったのである。



与兵衛の立場が、どことなく、歌舞伎界における獅童丈のポジションに重なっても見える、というと、素人目の穿ち過ぎになるだろうか…





殺し場の「油」は、場内放送によれば、植物性の液体らしい。(豊嶋屋油店の場の前に)最前列のお客さんには、ビニールシートが配布されていた。

たとえ、好きな役者が出ていても、あれが飛んで来たら、ちょっと勘弁である(私のいた席は遠かったから、心配無用でしたが)。





ロビー表示の時間割では、3回の休憩があって、上演時間は、トータル3時間となっていたが、…(11時開演の)初日の実際の終演時刻は、2時18分頃。

セットの組み替えにも時間がかかっていたみたい。

その後、多少は短縮されたろうか?



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